設立趣旨

地球年代学は、岩石、鉱物あるいは地層などの年代を決定し、地質学をはじめとする地球惑星科学、人類学および考古学などの基礎科学分野に時間軸を与える学問である。地球年代学の歴史は地質学の200年を超える歴史と重なり、1906年に放射性元素の壊変を利用した年代測定法が提案されて以来発展してきた。特に第二次世界大戦以後の様々な測定手法の開発を契機として急速に発展し、日本においても放射性元素の壊変を利用した年代測定法はあらゆる地質試料の絶対年代(放射年代)の決定に試みられ、数多くの成果が得られてきた。具体的な手法としては親核種と娘核種の同位体比の時間的変化を利用する方法(カリウム—アルゴン法、アルゴン—アルゴン法、ルビジウム—ストロンチウム法、ウラン—トリウム—鉛系列法、希土類元素を用いる手法、レニウム—オスミウム法)、宇宙線生成核種を利用する方法(放射性炭素法、ベリウム—10法、アルミニウム−26法)、放射線損傷を利用する方法(フィッショントラック法、電子スピン共鳴法、熱/光ルミネッセンス法)等がある。
地球年代学と社会との主たる接点は地球資源の開発分野であった。特に、火山・火成起源の非鉄金属の開発において、地球年代学は半世紀以上もその成果を提供し続けてきた。近年では、断層を対象とした活動履歴の解明が試みられ、地震防災分野における貢献も期待されている。このように、地球年代学は社会生活の基盤を支えてきた学問の一つであるものの、残念ながら、社会一般での認知度は極めて低い。その原因の一端は、研究者による社会への発信不足にあり、また、官庁や地質系企業の年代学的研究に対する理解不足にもあると思われる。地球年代学が今後も社会的にマイナーな存在であり続ければ、研究の停滞や人材の不足に繋がる恐れがある。それは研究者や技術者にとっての不幸であるばかりでなく、国益の確保という観点からも極めて不幸な事態である。
一方、ここ数年間の社会情勢の劇的な変化に伴って、地球年代学を含む地球惑星科学の社会的環境は、わずかではあるが向上しつつあると感じる。その背景には、2011年3月に起こった東日本大震災に伴う津波と福島原発の事故がある。また、国際関係に影響されやすい希少金属をはじめとした地下資源の確保の不安定さ、そして多発する異常気象とそれによる大規模な斜面崩壊などの「身近な危機」の続発がある。地震、津波、活断層、火山噴火、深層崩壊、熱水鉱床、レアアース、メタンハイドレート、シェールガスなどの学術用語が毎日のように新聞やテレビで報道され、地球惑星科学全般についてもその有用性が社会全般に認知され始めてきたと感じる。このような社会の変化に呼応して、地球惑星科学に関連する研究開発事業や公共事業も目に見えて増えてきている。地球年代学分野においても産官学の多方面から防災や資源開発に対するさらなる貢献が期待されている。また、地質系の民間企業においても、地球年代学を行政や関連機関の要請に答える新たな事業として積極的に捉え始めてきた。
現在、地球年代学に対して、早急に解決されることが期待されている課題は、活断層や活火山の精確な年代測定である。地球年代学は、地球誕生から現在に至る約46億年間の様々な地質学的事件を識別してきたが、数万年前〜10数万年前の精密年代測定については、今のところ実証段階にまで至った手法を持っていない。この地球年代学の空白域とも言える数万年前〜10数万年前は、現生人類(ホモ・サピエンス)が地球全体に出現した時代であり、地質学的には現在と一連の変動サイクルにあると考えられている。その時代から現在にかけて活動を続けた火山は活火山と呼ばれ、また、地震を引き起こした断層は活断層と呼ばれる。それら“生きている地質”の履歴を明らかにするためには、第一に、高度な工学技術に基づいた先端的な分析装置を製作する必要がある。次に、地質試料の年代測定を精確に実施するためには、地質学と年代学に関する高度な知識と洗練された技術を修得した若手研究者あるいは大学院生が不可欠である。
現在から近い将来にかけて、地球年代学とその関連分野に対する社会的要望は多岐にわたり、その課題も高度化すると考えられる。その中で、特に、先端的な物理工学的技術力や有能な人材の確保といった問題は、一つの大学研究室あるいは一人の研究者の努力で解決できるものではない。それぞれの手法にはそれぞれに適した対象(鉱物)があり、測定可能な年代範囲があるように、研究者においてもまた、個々に得意な年代学的手法には限りがあり、解決すべき個別の課題を持っている。複雑な形成史を持つ試料に対しては複数の年代学的手法を併用するように、ひとりで解決困難な課題に対しては、同じ思いを持つ研究者が協力して、時には民間の支援を受けながら組織的に対処することが望まれる。
地球年代学に携わる全ての研究者、また、地球年代学を必要とする全ての研究者と関連技術者は、人類がより安全により豊かな暮らしを育むために、今こそ協働しなければならない。これからは、個の持つ知識と能力を結集し、お互いの長所を生かしながら協力して技術的な課題を克服すると共に、将来の地球年代学とその関連分野を担う有望な人材を育成して社会にその成果を還元しなければならない。その社会的使命を果たすために、私たちは法人格の取得が必要であると考える。法人化することによって、地球年代学ネットワークの活動は、常に公開されたものとなり、同時に社会に対する責任を伴うものとなる。また、その活動に係る予算に対しても透明性が担保されることになり、社会的な信用が得られやすくなる。地球年代学ネットワークの法人化は、地球惑星科学の有用性を社会に伝える手段の一つであり、また、それに携わる研究者と関連技術者の社会的地位の向上に資すると考える。
私たちが立ち上げる特定非営利活動法人「地球年代学ネットワーク」は、地球惑星科学に携わる大学研究室、地方公共団体、NPO法人、民間企業等をつなぐパイプ役となり、安全で幸福な社会を構築するために、それらが共に社会的使命を果たせるようなネットワークを創出する。次に、研究者、技術者、一般社会人や学生等の社会貢献力を適材適所にて協調する環境を整え、地球年代学とその関連分野の知識および技術の向上を目指す。この法人はまた、学術的知見および技術的有用性の普及啓発を行うとともに、携わる者の社会的地位の向上に取り組み、必要に応じて行政並びに関連機関へ提言する。さらにネットワークを利用して、次世代を担う研究者の育成と技術者の再教育を行い、新たな雇用創出に尽力する。
特定非営利活動法人「地球年代学ネットワーク」は上記の取り組みをもって、学術および科学技術の振興、社会教育、環境の保全、観光の振興、国際協力、雇用機会の拡充など社会全体の利益の増進に寄与する。
なお、私たちは上記の目的を達成するために次の事業を展開する。
(1) 地球年代学及び関連分野に携わる若手研究者の育成と雇用創出事業
(2) 地球年代学及び関連分野の測定手法と装置の研究開発事業
(3) 地球年代学及び関連分野に関する調査・分析データの提供事業
(4) 地球年代学及び関連分野における国際交流と協力の推進事業
(5) 地球年代学及び関連分野の知見及び技術的有用性の普及啓発事業
(6) その他、本法人の目的を達成するために必要な事業

 

設立代表者 板谷 徹丸